宮崎

tsujino2005-06-03

「えっと…こ、こんにちはー…。麻帆良学園中等部3年A組、出席番号27番、本屋ちゃんこと宮崎のどかですー。好きなものは読書と子供先生。嫌いなものは子供先生以外の男の人です。あ、いえ、嫌いってわけではないんですけど……なんだか怖くって…。苦手、ですー。性格は引っ込み思案、気弱、健気。伸びきった前髪の隙間から、零れ落ちそうに大きな瞳でおどおどと世界を覗き見てます。こんな私の儚さが好きですかー…? 萌え萌えですかー…? 気持ち悪いですね。死んだほうがいいと思います〜・・・あううぅ。」

「前髪を伸ばしているのは外界の遮断や線引きなんかじゃないんですー。それどころか、外部なんていうのは私にとってどうでもよくって、ただ磨き上げた御影石のように黒翳として照り返す髪に自分の姿を映し出し、見つめているだけなんです(そもそも、趣味が読書な時点で気付くべきだと思いますけど・・・あうう)。それと同時に、自己が外に向かって噴出しないようにという防波堤の役割も果たしていますけどねー。そういう意味では一つの境界と言えるのかもしれませんけれども…。だから、あなたの抱いている印象は正に幻想ですし、また私はそれを裏切る事によって私でいられるんです。ガッカリですかー? ショックですかー? なら死んだほうがいいと思います〜・・・あううぅ。」

「で、でもですね、他ならぬあなたも、私と同じなんですよ。というのも、あなたが夢中になる何ものもが美化した、こうあって欲しいと願うあなた自身であるという前提において、あなたを夢中にする私はあなた自身なんです。そこにどのような感情を伴うにせよ、あなたが私にあなたを投影するその構造と、私の所業は同じなんですー。これまであなたは社会や経済といった集合と私を重ね合わせて、なんらかの意義という共通部分を導き出そうと鏤骨してきましたけど、すべては無駄だったんです。なぜなら、私はあなたであり、性的な価値を付与された場合においてあなたの性器であるだけで、それ以上の意義なんてものは存在しないのですからー。もっとも、どんなに論理的な解を導き出そうとも、引き裂かれるような心の痛みは消えるどころか増すばかりなので、無意識的にせよ、その事実に気付いてはいたのでしょうけど。熱意の方向性を間違えていた、それがただ一つのあなたの過ちだったんです。だってほら、今この瞬間、苦しいですよね? 真実に向き合っているはずなのに苦しい? あくまでそう言い張るのでしたら、ええと…死んだほうがいいと思います〜…あううぅ。」

「誰が、何が悪いというわけではないんですー。辛い現実が代置として私を求めさせるのではなくて、私を求めるあまり現実を辛く感じるのでもなくて、ただ時期が遅かっただけです。あなたは胎内で既に断面図に包まれていましたし、誕生の瞬間からずーっとモザイクに覆い隠されて生きてきたのですから。けど、それは悲観することではありませんよー。ただどこに比重を置くかの違いだけであって、前提の違うあなたは、成長のあり方も違うだけなんです。違う形で目的や、愛や、希望や、意味を見出す事は可能なんです。その差だって、たいしたものではありませんしー。それでもなお迎合を求めると言うのであれば…そうですねー……それは無理だから、死んだほうがいいと思います〜…あううぅ。」

「わたしはですねー、あなたの、直の気持ちを知りたいです。重堅な理屈の鎧をまとう前の、必要以上に道徳的な常識のフィルターで濾過する前の、心からの望みを知りたいです。それは、あなたにとっての幸福であると同時に、私にとっての幸福でもあるんですから。私は、あなたの希望通りに成功も失敗もできます、そして演じるでなく演じてあげられます。ただただ、あなたの為に生きているんですー。って、これで満足ですかー? かわいい女の子に、魔法である所の小さな勇気を与えられて満足ですかー? ええとー、そんなやつはさっさと死んだほうがあわっ!あわわもごもご!!」
ひと掴みの萌えが、おしゃべりなキモオタの口をいっぱいにした。
「いえ、あのー…なんでもないですー…」
「えっと……えっとですねー…」
「tsujino君の前でしたら……わ、私…ええええっちな女の子になっても…いい、ですー…」