け/より/な

あの映画に関しては、もういいよね、、、時間もだいぶあいてしまったし、、、と半ば強引にうやむやにしたい。元より「皆それぞれ様々な点─内容解釈や好評だった娯楽大作の後にこういった難解な作品を作った意義等について、時代風潮を踏まえつつのびのび自由に論じあって欲しい、、、勝手にしてくれ、、、」以外に何の感想もなかったが。

それよりも観にいくべきは銀座HOUSE OF SHISEIDOでやっている「アール・ブリュット」展だ。アール・ブリュットという規定に対して(よく分からないながらも)不信感を抱かずにいられない俺だが、正直なところ真剣に感じ入ってしまう瞬間が多々あった。だから必見だ、と力弱く断言したい。ダーガーあるし。何よりも無料だし。
そう言えば。ダーガーと言えば先日こんなことがあった。


平日の昼間。ボーっと歩き回るのに疲れたので目に付いた喫茶店に入り、ボーっと休んでいる時のことだった。ボーっと何か漠然とした考え事をしていると、控えめに店内を流れる、歯科医院の待合室で流れていそうなとしか形容しようのない無難な音楽の合間に、突如”ヘンリー・ダーガー”と聞こえてきた気がした。これには驚き、思わず意識をはっきりさせざるをえなかった。
するとそれは幻聴の類ではなく、近くの席に陣取っている集団から実際に聞こえてきたのだと分った。とはいえ、なぜ?という疑問は全く解消しない。そこでそれとなく耳を傾けてみると、というか声がでかかったので割と勝手に聞こえてきてしまうのだったが、どうやらそれは美術だか被服だかの専門学校生か何かの集団らしく、その内の一人(女性)がダーガーについて熱心に話しているのだった。詳しい内容までは分らなかったが、口調や断片的に聞き取れる台詞から、その女性は心底ダーガーが好きで、その魅力について友人たちに語り聞かせてているようだった。曰く、真に純粋な表現とは云々・・・・
それを確認し終えた俺は、位置関係のせいでその女性の外貌を確認できないことに妙な索漠を感じながら、いつも通りの無感覚的な心持に戻ろうと再びボーっとしはじめた。