Artificial Light(Of all the Living lies)

さくらやホビー館で流れていたスクランDVD4巻のデモをぼんやりと眺めていたら、塚本は僕の手を離して、「そろそろ自分の力だけで泳いでみる」というようなことを言った。僕はまだ無理なのではないかと思ったけど、もし溺れたとしても助けだせるだけの身体能力はあると自負していたし、なにより、塚本の熱意に満ち溢れた瞳を前にしては承知せざるをえなかった。
互いに少し距離をとってから合図を送ると、塚本は勢いよく水飛沫を上げて泳ぎだしたが、案の定すぐに沈んでいった。僕は慌てて膝を折り、伸ばし、腕を掻いた。両手で腰を支え水面に引き上げると塚本は大きく息を吸い、それからにっこり笑って言った。
「ごめんね、やっぱり一人じゃ無理だったみたい。」
「でも15mも泳げたのは新記録だよ〜。」
「tsujino君の教え方がよかったからだね。ありがとう!」
小さく二つ結びにした髪、例の触角みたいなのをぴょこぴょこと動かしながら。僕にはそれが猫が水滴を払うために体を震わす仕草のように思えて、なんだか可笑しかった。
「そんなことないって。」
「塚本が、頑張ったからだよ。」
陽光に照らされ大気に分散した塩素の粒が子供たちの笑顔と混じり合い、きらきらと夏がやってきた。遠くに聞こえる蝉の鳴き声、スピーカーから流れる流行歌、機械的によせてはかえす波音、グラデュアルな音階さえ支配した塚本はピンクのワンピースを乾かしながら伸びをして、店員と警備員の「凝視してんなよ邪魔だオタ」と言わんばかりの視線に萎縮した僕は、そそくさとその場を去り、いやらし〜いポーズをとってかわゆ〜く微笑むフィギュアちゃん達−ヤスパース曰く、包括者!−でも見物しようとエレベーターの(2)のボタンを押した。
あんなに素敵な僕と塚本の記憶が僕だけのものになる22日が楽しみです。